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2016.8.19更新

2016 Autumn Special Interview
繊細なアプローチから生まれるモダンな笠間焼

エクセル館内や駅に貼り出されたポスターはご覧になりましたか? 前回に続き、秋のシーズンビジュアルも茨城県ゆかりの伝統工芸品とコラボレーションしています。モデルとその周りの世界に美しくとけこむのは、全国で人気を集める陶芸家・阿部慎太朗さんによる笠間焼の数々。タイムレスな魅力を放ち現代の暮らしに寄りそう阿部さんの笠間焼がどのように生み出されるのか、お話を伺いました。

見る者を惹きつける丁寧で緻密な器へのこだわり

―阿部さんは、どのようなきっかけで陶磁器作家の道へと進んだのでしょうか。

上京して入った大学に陶芸のサークルがあって、それまで工芸などに興味があったわけではなく『勧誘していた先輩が面白いから入ってみよう』くらいの軽いノリでスタートしました。そこからサークル活動を続けて、卒業する段階でもまだ陶芸をやりたいという気持ちが強くて。東京から一番近い、茨城県工業技術センター窯業指導所という学校の存在を調べて知りました。陶器の表面をコーティングする釉薬(ゆうやく)を研究する専門の科がそこにあったのが入所の決め手でしたね。ろくろや成形の技術全般より釉薬の研究を重点的にしたかったこともあり、化学的な話の座学や釉薬を一から開発する勉強などをしていました。その後独立して、現在4年目になります。

―成形や釉薬に関して、阿部さん流のこだわりや大切にしている部分はどこでしょうか。

成形技術は独学な点が多くて、大学のサークル時代からの経験が活きていますね。型成形やろくろ成形など、つくりたいものに対して向いている方法はそれぞれ必ずあるので、適した方法を考えながらアプローチしています。僕自身は、釉薬に関して特にこだわりが強くて……「光沢をもう少し抑えたい」「溶ける温度をあと5度下げたい」など細かい部分を気にし始めると、適当に混ぜていては全然ダメで。原料を全てグラム単位で配合するなど化学的に考えています。粉を量り取って調合してテストピースと呼ばれる試験片にかけて焼きますが、同じ釉薬でも小さなピースで焼いたものと実際のお皿に施したものではイメージが違うこともあって……。最近グレーの器をつくりましたが、その色味がなかなかうまく出せなくて。実験して違ったらまたやり直しの繰り返しですね。その時は540パターンくらい試して、最終的にひとつを選びました。気が遠くなるような作業ですが、その細かいこだわりが僕の強みでもあります。

Profile

阿部 慎太朗

香川県高松市出身、陶芸家。大学より陶芸を始める。茨城県工業技術センター窯業指導所 釉薬基礎・実践コース修了。2013・2014年 茨城県芸術祭美術展覧会入選。現在も茨城県笠間市に工房を持ち、作陶を続ける。
阿部 慎太朗 Webサイト

photo/Yukiko Saito , text/Kaori Mukawa